「ヘブラーは、1926年にウィーンで生まれた女性ピアニスト。日本にも演奏旅行できているし、数多くのレコーディングもしているので、日本の音楽ファンにもなじみ深い。ウィーン出身ということもあって、モーツァルトやシューベルトをとくに得意とする。そして、独奏者としてのほかに、室内楽の方面でも活躍している。ヴァイオリニストでは、グリュミオーやシェリングと組むことが多いようだ。
シェリングは、1918年にポーランドのワルシャワ近郊で生まれているが、戦後にメキシコの市民権をえている。ベルリンでカール・フレッシュに、パリでティボーに師事し、この2人の先生の長所をとり入れた独特な演奏様式を開発した。それは、楽譜に対してきわめてきびしいものであり、主情性をできるだけ排したものになっている。そうした意味で、このシェリングにもっとも適し、またシェリングがもっとも得意としているのがバッハだということも、理解できそうである。しかし、そのほかに、ドイツ系の作曲家のものにもすぐれた解釈をみせる。
ヘブラーとシェリングは、その演奏様式からみると、一見互いに相反しているかのようでもある。しかし、ヘブラーは、協演者に対してかなり流動的であって、シェリングの長所を生かしながらも、自分の持ち味の優雅さや抒情性やあたたかみを失わせはしない。つまり、2人は、いわば相補って、高度の次元の演奏をつくりだすのである。それに、2人の年代が接近していることも、合わせる場合には大きなプラスになっているのだろう。ヘブラーは、ピアノ独奏のときには、女性らしい表情やしなやかさをただよわせていることが普通だが、シェリングと組むと、むしろシェリングのきびしさに同調している。こうして、2人は、気の合った好結果を生むことになる。
このディスクの3曲のソナチネとイ長調のソナタでは、もちろん2人の姿勢が違う。ソナチネでは、シェリングは、なるべくヘブラーを立てようとしている。それでいて、2人は、これらの愛らしい曲を楽しみ合って演奏しているかのようである。それに対して、ソナタとなると、2人は同格になり、相互にバランスに配慮をおき、萎縮していない音楽をつくりだしている。そこには、この2人のシューベルトに対する敬愛の感情が感じられもするのである。」